ご挨拶
 ますます御清栄のことと存じます
 ご存じのとおり今年のノーベル賞に、一企業の学位を持たない若い研究員(小生と同年代)が選ばれました。さすが世界のノーベル賞だと感動しました。もしも選考委員が日本人だけならば、この受賞は無かったことでしょう。現に日本のマスコミはおろか学者の間でさえ彼はノーマークだったそうです。世界というフィールドでは出身、所属、学閥、学位など何の意味も持たないことが証明されたのです。「学会に参加するためにも審査がある」ような閉鎖的なことでは進歩を妨げることになるでしょう。
 大学・医局中心だった旧来の医療界も確実に変化しています。かつては形成外科の一分野として存在し日陰的存在と思われた美容外科も、皮膚科と泌尿器科が分離したごとく、外科から整形外科や脳外科あるいは胸部外科等が独立していったごとく、一つの独立科として捉えられています。それには在野の一開業医の果たした役割が大でありました。
 近年、皮膚科、婦人科、泌尿器科等を中心として他科との境界も薄れつつあります。アンタイエージング、HRTを代表とする内科的アプローチなど手術外の分野もクローズアップされています。他科から美容外科への進出も自然な流れとなっています。
 今学会の演題を見て頂けば「外科」という二文字は余分な印象さえあります。一部の派閥が利己的な利益死守のために叫ぶ「形成外科医にあらずんば美容外科医にあらず」といった視野の狭い考えは時代にそぐわないものです。自己の殻に閉じこもる事は医療ボーダーレスな現在、進歩が遅れるだけでなく危険な考え方でもあります。
 老齢化社会が現実となり、美容外科のニーズがますます高まりをみせる今、綜合医療としての美容外科を捉えてみたいと思います。テーマは「綜合医学としての美容外科」としました。「綜」の字は誤植ではなく「総」の字にはない「糸を織っていく」という意味が込められています。
 学会というのは限られた時間もあり、全てが血となり肉となるものばかりとは限りません。しかしTipsは転がっています。頼りになる味方、エキシビジョンにも多くの出展をいただきました。患者さんに幸福の布を織ってあげてください。「これでいい」と満足した時進歩は終わります。一見簡単な手術もあるかも知れませんが、そんな手術でも新鮮な発見や新しい解釈の余地はあるはずです。どの手術が一番かと問われれば「next one」が進歩です。

第83回日本美容外科学会
会長 平田修人(名古屋美容外科)

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